こんにちは、齋藤です。
今回はこんな悩みに答えてみたいと思います。
とある会社で課長職をしていますが、困っていることがあります。
課内の部下が報連相できないのです。
正確に言えば、必要十分な報連相がなされていません。
新人もそうなのですが、ある程度経験のある部下も最低限の報告しかしてきません。
私に情報が入ってこないばかりに、小事が大事になって火消しに追われることもあります。
その度に、報連相をしっかりしろときつく注意するのですが、状況は好転しません。
報連相の仕方は入社時の座学研修で教えていますし、何かあったらすぐ報告するように伝えてはいるのですが・・・。
報連相は組織運営において重要な意味を持つ上、いつの時代も上司の大きな悩みとなり得るものです。
行動分析学の視点から部下が報連相をしない理由、そしてどのようにしたら報連相が組織で習慣化するようになるのか考察します。
報連相ができない理由
そもそも報連相のやり方がわかっていない
そもそも、どのようにやるのかを知らなければ行動することはできません。
泳ぎ方を知らない人に「とりあえず泳いでみて」と指示しても行動を引き出すことは難しいでしょう。
とにもかくにも行動を引き出すには、まず、その方法を知識として蓄える必要があります。
「報連相なんてやり方も何もないでしょ?」と思われる方もいるかもしれません。
しかしとりわけ新社会人にとっては、職場は右も左もわからない、どんな行動が正しいのかもわからない非日常的な領域です。
どのように話しかけるか、何から話してどう展開すれば良いか、どのように話を終えれば良いか、報連相1つとっても躊躇してしまう可能性が高いのです。
こうなると、報連相という行動が起こりにくくなります。
また、座学研修をしたからやり方を知っているとは限りません。
ご存じのように、必ずしも教えたから学んでいる、知っている訳ではないからです。
本当に知識がある、というのは訊かれたら即座に答えられるというレベルです。
この知識の部分がしっかりしていないと、経験のある人でも本当に適切な方法で報連相をすることができないため、相手から適切な反応が返ってこない可能性が高くなります。
後述しますが、適切な反応がない行動はなかなか習慣化できません。
適切な報連相の仕方を教えることは、将来的にも重要なファーストステップになるのです。
しっかりと知識を習得できているか、その確認をせずに「研修をしたから知っているだろう、できるだろう」と考えるのは危険でしょう。
報連相をしても反応が返ってこない
仮に正しい報連相ができたとして、その行動に対して何の反応も返ってこない。
「ふーん」「あっそう」と返されたり、最悪何のリアクションもない。
このような状況も、報連相の習慣化を阻害しています。
行動は何も結果が伴わない場合、習慣化しないからです。
この行動原理を消去の原理と言います。
報連相をすると好ましくない結果が伴う
また、行動に対してネガティブなリアクションがあった場合も、報連相の習慣化を阻害します。
例えば、報告に対して必ず小言を言われる。
Aという件で報告したのに、まだ報告したくない別のBという件について言及される。
相談すると露骨に嫌な顔をされる。
相談すると余計に話がややこしくなったり、仕事が増えたりする。
上司がこのような対応をすると、部下は積極的な報連相をしにくくなります。
行動はネガティブな結果が伴うと、習慣化しにくくなるからです。
この行動原理を弱化の原理と言います。
正しい報連相の仕方が身についていない場合も、叱られたりネガティブな結果が伴う可能性が高くなり、結果、弱化の原理が働く可能性が高くなります。
部下を報連相させるには
以上が、大まかに考えられる部下が報連相をしない原因です。
これを踏まえて、部下が積極的に報連相をするようになるにはどうすれば良いのか考えてみましょう。
報連相の仕方を学習、習得する
可能であれば、実際の仕事に入る前に基本的な報連相の仕方を徹底的に身に付けることが理想です。
手順としては、
①どのようにやるか実際に手本を見せる。
②ポイントを細かく教示する。
③実際に練習させる。
④良かったところと改善な必要な箇所の具体的なフィードバックを行う。
⑤このフィードバックを基にして再度練習し、またフィードバックを行う。
この過程をできるようになるまで繰り返します。
これは行動的スキル訓練と呼ばれる行動形成のプロセスです。
手順を忘れそうになったら山本五十六の格言を思い出しましょう。
行動的スキル訓練の手順を簡潔に言い表しています。
やってみせ、言って聞かせてさせてみて、褒めてやらねば人は動かじ
このようにして、報連相のやり方を実践レベルで習得するようにすると、実際の職場でもスムーズに実践に移すことができます。
行動には必ず前向きな評価をする
行動にネガティブな結果が伴えば、その行動は習慣化しにくくなります。
逆に言えば、行動にポジティブな結果が伴えば、その行動は習慣化しやすくなるということです。
この行動原理を強化の原理と言います。
なので、報連相という行動には対しては、行動したことそのものに「報告してくれてありがとう」と好意的な評価をすることが重要です。このポジティブな反応が報連相という行動を強化するからです。
その上で、具体的に良かったポイントがあればそれを評価すると尚良いでしょう。
そうすれば、その特に良かった行動をピンポイントで強化することができます。
また、行動に対しては即時に評価するとより効果的です。
行動に対するフィードバックは、より即時的であればあるほど、行動はより強化されやくなるからです。
例えば、電源を入れてから3秒で起動するパソコンと1分かかるパソコンだったら、どっち使うかは言わずもがなですよね。
より早い対応は行動の強化力を高めます。
このような行動原理は対人関係でも同様なのです。
適切なフィードバックを提示する
行動には好意的な評価をする。
と言っても、すべての行動が評価できるものではありません。
行動したこと自体は評価できても、その内容の中には指導して改善しなければならないことも沢山あります。
このような改善を伴うフィードバックの際には、どのような行動をどのように改善すべきか具体的に提示する必要があります。
曖昧な改善指示では、指導する側とされる側で内容の齟齬が生じてしまうため、効果的な行動の改善につながりません。
「よく考えろ」「やる気を出せ」「周りを見て行動しろ」では効果的な改善は望めないでしょう。
よく考えて行動できない人は、よく考えるとはどのように考えることなのかを学習していないからです。
ですから、「よく考える」ということを具体的な行動に翻訳して伝える必要があるのです。
曖昧な指示によって効果的に行動が改善されないと、その後の報連相でポジティブな反応を得られない可能性が高くなるので、結果的に行動が習慣化されにくくなるということとにもなります。
嫌悪的なフィードバックをしない
修正を伴うフィードバックでも、怒鳴ったり感情的になってはいけません。
とりわけミスの報告だからといって感情的に叱責しても好ましい結果にはつながりにくいでしょう。
むしろ本来はそのような報告こそ積極的に評価されるべきものです。
放置されれば大きな損失を生み出しかねないからです。
しかしミスを責めるような感情的な対応は、報連相そのものを弱化させる可能性を高めます。
それは、その後の業務に悪影響を与える可能性をも高めることになるでしょう。
どんな時も適切な報連相自体には好意的な反応を示し、冷静にフィードバックを提示することが報連相の維持と質の向上につながります。
一貫したフィードバックを徹底する
同じように報連相をしているにもかかわらず、状況や人によって反応が違うと行動は上手く強化されません。
ある時に報告したら機嫌良く対応してくれたが、ある時には怒鳴り散らされた。
これでは、部下の報連相を安定的に強化するとは難しいでしょう。
個人の行動改善は、周囲の環境改善によって達成される。
以上の説明をご覧になってわかるように、人の行動はその結果、つまり周囲のリアクションに強く影響されます。
行動はその行動がもたらす結果によってその後起こるかどうか決定する
これが行動原理の大前提です。
だから、いくら「報連相を徹底するように」という指示があっても、その行動に好ましい結果が伴わなければ、決して定着するようにはなりません。
個人の望ましい行動の形成・維持は、本人だけでなく周囲の環境も整って初めて実現するものなのです。
あなたが誰かにやって欲しい行動がある時、その人だけに責を負わせ、ただ求めることは決して効果的な方法とは言えません。
あなた自身が、その行動に対して相手が望む反応を返してあげる必要があるのです。
名経営者と呼ばれる人は笑顔の練習を欠かさないそうです。好意的な反応が相手の好ましい行動を引き出すことを知っているのかもしれないですね。