こんにちは、齋藤です。
「医療が進歩すると病気が治らなくなる」
意味が分からないタイトルをつけてしまいました。
私は医療従事者でも医療ジャーナリストでもないので医学的な側面から話をするわけではないのですが。
行動科学の側面からこの可能性について提起したいと思います。
命を救う薬を飲まない人々
こんな調査がありました。
ある製薬会社が生活習慣病患者300人に対して「処方薬の飲み忘れに関する意識・実態調査」というものを実施しました。
9割以上の患者が医師から処方薬についてきちんと説明を受けておりおおむね理解していると回答したそうです。
しかし、自分の判断で用量を減らしたり中止したことがある人は2割、薬を飲み忘れたことがある人は5割程度いました。
ちなみに、自分の判断で帰る人の理由で多いのが、「症状が改善されたから」「面倒だったから」、飲み忘れの理由で最も多いのが、「うっかり忘れてしまったから」だそうです。
その結果、飲み残しが出てしまった人も3割いました。
また、イギリスの調査では、退職直前より退職直後の方が薬の飲み忘れが多いという調査結果が出ています。
単純に忙しいことが飲み忘れの原因ではないようです。
ご存じの通り、生活習慣病は適切な治療をしなければ命に関わる病気です。
また、生活習慣病における服薬治療は長期間にわたり、ともすれば一生付き合っていくものです。
生活習慣病において、適切な服薬は命をつなぐ行動習慣と言えるでしょう。
しかし、その命をつなぐ行動習慣を指示通り実行できていない人が5割もいるのです。
しかも、2割の人は意図的に指示に逆らっているのです。
一体なぜなのでしょうか?
メリットのない行動は習慣化しない
人は行動の直後にメリットのある行動は習慣化しやすくなります。
頭痛薬を飲んで、頭痛が治まればその頭痛薬を飲む行動は習慣化しやすくなります。
これは、強化の原理とよばれる行動原理です。
しかし逆に言えば、直後にメリットが伴わない行動は習慣化しにくいということです。
生活習慣病の薬は、服薬したからといってすぐに効果が現れるわけではありません。
そもそも、生活習慣病には日常的に症状の実感がないものも多いでしょう。
なので、薬を飲んでも体感的には何の変化もないのです。メリットがないのです。
メリットのない行動は習慣化しにくくなります。
この行動原理が生活習慣病の服薬が習慣化しにくい要因の1つだと考えられます。
メリットがない分、いちいち定期的に服薬する面倒さが一層浮き彫りになります。
結果に比して行動コストが高い行動は起きにくいのです。
今風に言えばコスパが悪いわけです。
これが一層服薬の習慣化を妨げることになる2つめの要因です。
しかし、もちろん服薬治療をしなければ病状は徐々に悪化していきます。
本来デメリットとなる結果を回避するよう人は行動するはずです。
しかし、実感するほど劇的な悪化が起きないので、回避するほどのデメリットと認識されないのです。
あなたの自由のために、理想的な行動習慣を
ある研究者の指摘によると、イギリスの高血圧有病者数は約1600万人に上り、降圧薬を指示通り飲んでいれば救えたはずの命が12万人いた可能性があるとのことです。
いくら医療が進歩して効果的な薬が開発されようとも、それを服用する患者自身がおざなりにしてしまえば病気を治すことができないのです。
だから、しっかりと服薬管理ができる行動習慣を身に付けることが重要なのです。
これから医療はどんどん進歩していきます。
それは間違いのないことです。
以前は、入院して手術して直していた病気も、お医者さんから薬を貰って自宅で服用して直すということになっていくでしょう。
癌のような難病も自宅で薬を飲むだけで完治する日が来るかもしれません。
ですが、その時が来たとして、私たちは医師から指示された通りにしっかり自分自身で服薬管理をすることができるのでしょうか。
生活習慣病患者の半数と同じことが起きはしないでしょうか。
結局は入院など完全な管理下で治療した方が早く治るなんてことになるかもしれません。
最悪は命に関わる自体ともなり得るでしょう。
繰り返しになりますが、医療が進歩すればする程その病気を適切に治療できるかどうかが私たち自身にかかってくるのです。
科学が進歩し、文明が発展する度に私たちは自由を獲得してきました。
医療が進歩すればする程、私たちは病気に囚われることなく日常的な生活を続けることができます。それ自体は素晴らしいことです。
しかし、医療に限った話ではありませんが自由と自己責任は表裏一体です。
これからを生きる私たちは、自分を守るために自分自身で行動習慣を作り上げていく必要があるのです。