こんにちは、齋藤です。

先日テレビでイギリスの更生保護施設について特集が組まれていました。

そこでの取組みがユニークかつ効果的、なおかつ行動科学的なアプローチでしたのでご紹介したいと思います。

この方法、保護施設に限らず私たちの日常生活に溶け込んでいる手法なのです。

問題児の集まる更生保護施設「ビニグリーン」

イギリスでは毎年、2000人の子どもが危険だと判断され、保護施設へ収容されるそうです。

今回ご紹介するのはそんな施設の1つ、ビニグリーンです。

ここでは、学校や親がさじを投げて送り込まれた10~17歳の子どもが共同生活を送っています。

彼らの多くは非常に攻撃的です。

暴言・暴力沙汰は日常茶飯事、職員の助言にも反発し罵詈雑言を浴びせます。

また、持ち物検査では日用品を削って作ったナイフやハンマーなどが発見されることもしょっちゅうです。

まさに修羅場の最前線といえるでしょう。

では、子どもたちはなぜそんな行動をしてしまうのでしょうか。

彼らの多くは育ってきた環境が特殊です。

親が刑務所に服役していたり、そもそも母親の顔すら知らない子もいたりします。

施設に入って虐待しない大人と初めて出会ったという子もいるくらいなのです。

そんな環境の中、子どもが生きていく為にはどのように行動したら良いか考えてみます。

自ずと窃盗や恐喝に向いていくことは想像に難くありません。

彼らが暴力的に振るまうのは、彼らにとっては生きる上で必要で正しい行動だと学習しているからなのです。

そしてそれを阻む周りの子どもや職員に反抗するのは当然の反応です。

結果、その態度が社会的に適切な在り方とずれが生じ問題となっているわけです。

ポイント制で待遇を変える

彼らの行動を改善するには、社会的に正しい行動が何かということを再定義して、実際にその行動を評価してあげる必要があります。

そこでこの保護更施設が導入したのがポイント制です。

例えば、授業にちゃんと出席して、職員の言うことを聞くなど、適切な行動にはポイントが加点されます。

一方、暴力な振る舞いなど不適切な行動をするとポイントが減らされてしまいます。

このポイントがどれだけ貯まったかによって施設内でのランクが決まり、待遇が変わります。

最低ランクのブルーだと楽しめる娯楽はラジオだけで、お小遣いは週に550円です。

これがシルバーに上がると、テレビ、電話が使え、お小遣いは週690円にアップします。

そして最上級のゴールドに到達すると、テレビゲーム機で遊べ、自室で食事ができて映画まで観ることができます。

施設内とはいえ、子どもたちは良い暮らしをしたいですからポイントを獲得できる行動をするようになります。

つまり、適切な行動がポイントというメリットによって強化されるようになるわけです。

行動分析学でいうところの強化の原理が働くわけですね。

この方法を使うことで、最初は手に負えなかったような子どもの態度も改善され、多くの子どもが社会に復帰していったそうです。

日常生活に溶け込むトークンエコノミー法

ポイントによって適切な行動を強化する。

この手法は、行動分析学ではトークンエコノミー法と呼ばれるものです。

トークンエコノミーとは、ポイントなどお金に替わるものを行動の報酬として与え、ポイントが貯まると個人の好みに合わせた様々な報酬と交換する仕組みです

つまりポイントという報酬を与えることで、行動を強化していくわけです。

冒頭で私たちの日常生活でも溶け込んでいると言いましたが、私たちはこのトークンエコノミー法に常に触れながら生活していると言っても過言ではありません。

そう、ポイントカードですね。

今や、何を買ってもポイントがつきます。

スーパーで日用品を買っても、通販サイトを利用しても、銭湯でひとっ風呂浴びてもポイントが貰えたりします。

そして、ポイントを貯めることで何か商品と交換できたり、利用施設での待遇が上がったりするわけです。

これもトークンエコノミーの活用例です。

まさにエコノミー(経済)ですね。

数多の企業がこのポイントシステムを、つまりトークンエコノミー法を導入しています。

ここまでこのシステムが普及している要因の1つは、やはり人の行動を促す効果があるからです。

問題児を更生するという難題を背負った保護施設でも導入されているのにも納得が行きます。

最後は人と人のコミュニケーションにかかっている

人の行動を促す強い力を持つトークンエコノミー法

しかし、1つ問題があります。

物質的な報酬によって強化された行動は、その報酬がなくなると減少しやすいことです。

つまり、待遇改善というメリットによって強化されていた適切な行動も、そのメリットが獲得できない状況になると無くなってしまう可能性があるのです。

施設にいる時は良いのです。適切な行動によって待遇改善が約束されるのですから。

問題は子どもたちが出所した後です。

適切な行動が施設を出た後も維持されなければ意味がありませんよね。

しかし施設の外では、適切な行動に待遇改善というメリットは伴いません。

ですから、少し道を誤ってしまえば元の木阿弥という可能性もあるのです。

そうならないために大切なのことは、適切な行動をした時に褒めてあげることです。

なぜなら言語による報酬には、人の行動を内発的動機をづけ強化する効果が備わっているからです。

内発的動機とづけいうのは、外部からの意図的な報酬がなくても行動を起こす動機づけです。

内発的動機付けが高まることで、外部環境の変化にかかわらず行動を維持することができます。

つまり、子どもの適切な行動をスタッフなど周りの人が褒めてあげることで、その行動は報酬がなくなっても維持されやすくなるのです。

しかし、そもそもスタッフに褒められる事をメリットと認識していない内は、褒めてあげることが行動の動機にはなりません

「正しい行動をしたら褒めてあげる」と言われたところで、指示に従うことはまずないでしょう。

ですから、まずポイント制でわかりやすいメリットを提示し行動を促すことが必要になります。

その上で褒めてあげることで、褒められる事は嬉しいことなんだと子どもたちに学習してもらうのです。

そのような積み重ねをコツコツと続けることで、いずれは物質的報酬がなくても適切な行動が強化されるようになるわけです。

物質的報酬で行動を強化し、言語的報酬で行動を維持する。

この組み合わせを活用することでビニグリーンは子どもたちを更生させ社会で活躍できるよう変えていったのだと思います。