こんにちは、齋藤です。
行動は、その行動に伴う結果によって将来起こるかどうかが決まる
これは行動分析学における行動原理の大前提です。
誤解をおそれず、尚且つ平たく言えば人は損得勘定で動くと言っているわけです。
身の蓋もない言い方ではありますが、損得勘定は人の行動を変える上で大きな力をもたらします。
そう感じさせた報道を目にしましたので、ご紹介したいと思います。
サンゴ礁を保護するようになったフィリピン漁師
フィリピンでは、ダイナマイト漁と呼ばれる漁法が盛んだそうです。
読んで字の如く、ダイナマイトを爆発させてその衝撃で魚を捕る方法です。
この漁法は効率的かつ確実に大量の魚を捕れるため、従来の伝統的漁法に取って代わりました。
なにしろ、時間も体力もいらない、人を育てる必要もないのですから。
ダイナマイトの制作もそれほどコストはかからないようです。
重罰を伴う法律違反ではあるのですが、この漁法はフィリピンの至るところで行われるようになりました。
しかしながら、そうしていく内に一部の地域では困った事態になりました。
段々と魚が捕れなくなったのです。
よく考えれば自然の成り行きです。ダイナマイト漁は、魚の住み処であるサンゴ礁ごとぶっ飛ばして魚を獲るわけですから、続ければ当然魚は居なくなります。
このままでは生活が危うい。困った漁師達は別の手段を獲ることにしました。
サンゴ礁を保護し育てることで、魚を漁場に戻そうとしたのです。
努力の甲斐あり、魚は漁場へ戻ってきました。
それ以後、漁師達はサンゴ礁を保護区域とし、そこから漏れてくる魚たちだけを獲るようにしたのです。
めでたしめでたし。
人は目の前の損得勘定に左右される
だったら最初からそうしろよ!と思うかもしれませんが、それは難しいでしょう。
サンゴ礁の重要性を知らなかったことも考えられなくもないですが、知っていたとしてもダイナマイト漁を行う可能性は高いと考えられます。
なぜなら、人の行動は、よりすぐに得られる結果に大きく影響されるからです。(これを即時性の効果と言います。そのままですが。)
つまり行動は目の前の結果によってその価値が決まるのです。
ダイナマイト漁によって得られるメリットは莫大であり、サンゴ礁の破壊という遠い将来の不確定なリスクは大したデメリットになりません。
ですから、ダイナマイト漁を行う行動は強化されやすいのです。
そして、行動に即時的に伴う結果が変動した時に、初めて人の行動は変わります。行動の価値が変わるからです。
フィリピン漁師達もそうでした。
ダイナマイト漁をする⇒魚が捕れる⇒サンゴが破壊される⇒魚が捕れなくなる⇒サンゴ礁を保護する⇒魚が捕れるようになる⇒サンゴ礁を保護しながら魚を捕る
と目の前の結果に従いながら行動を変えていったわけです。
仮にダイナマイト漁で魚が捕れている時期に、政府や環境保護活動家や海の向こうの私たちが「サンゴ礁を壊すな」と呼びかけても、やめることはおそらくないでしょう。
「このままだと魚が捕れなくなるぞ」と警告してもやめないかもしれません。
現に、知ってか知らずか今でもダイナマイト漁は各地で行われているそうです。
ですが例で示したとおり、目の前の状況が、有り体に言えば損得勘定が変われば人は行動をたやすく変えるのです。
これが行動分析学における行動原理です。
行動を変えたいなら目の前の損得勘定に向き合う
人は目の前の損得勘定で行動する。
文字にすれば当たり前かもしれません。
しかし、私たちは損得勘定以外に行動の理由や動機付けを求めます。
常識、やる気、根性、良心、道徳、将来性・・・。
将来的に有益で社会的に正しい行動をするべきだ、それは分かっています。
でも私たちにとって最も大切なのは今なのです。
「今を大切に生きろ」という啓発的な話ではありません。人は、遠い未来より目の前にある現実を基準にして行動している、ということです。
禁煙が難しいのも、二度寝してしまうのも、勉強や運動が続かないのも、将来的な正しさより現在の損得勘定を重視して行動するからなのです。
この基本的な行動原理は半ば無視され、心に行動の原因を求める風潮は未だに根強いと思われます。
そして、多くの人がその狭間でジレンマを抱え悩んでいます。
正しいと分かっていることができないと、自分自身を責めて行動できなくなっているのです。
とても、もったいないことだと思います。
理想に向かってより良く行動するためには、考え方を変える必要があります。
人を、自分を動かしたければ、目の前の損得勘定に真摯に向き合うことが必要なのです。
心に呼びかけるだけでなく、行動に対して確実なメリットを提示してあげるようする。
現金な発想ですが、そうやって自分を行動させてあげられる環境を作ることが大事なのではないでしょうか。